怪物の中にアンリも存在しているパターンの、ラストシーンの妄想です。ファンタジー脳です、すみません(先に謝っとく)
怪物は、時が経つにつれ一番憎むべき相手がビクターではなくビクターに自身を作るきっかけを与えたアンリなのだとわかってしまってると思う。自分の中に存在する者が復讐の対象となったら、どうするのか…という発想のもとに、もし怪物の中で怪物の人格とは別にアンリがアンリとして存在していたら…という考察というより妄想。妄想かつ怪物の中のアンリにとっては絶望多めな話(一応ラストは幸せ…なのかな?)なので、苦手な方は回れ右推奨。
アンリが怪物の身体を取り戻せないのは、例えば自分の中に「私になる前の誰か」だという人物の記憶が蘇ったとしても、その人の記憶が自分の記憶に追加されるだけで私は私だよなぁという発想です。でも、時折その人の表情や眼差しは記憶の淵から浮上してくるかもしれない。 正しいかどうかは知りません(笑)。
***
その身の中で怪物のビクターへの復讐心を知り、怪物が進める復讐に対して絶望の中で声にならない声を上げ続けるアンリ。
(やめろ!…やめるんだ!)
(お前を作ったのはこの僕だ!復讐するなら僕だけにすればいい…!)
怪物の中でアンリが目覚めたときには、怪物はすでに自我を持ってしまっていて、アンリがその身体を取り戻すことはもう不可能だった。アンリは怪物が闘技場で受けた仕打ちを怪物の記憶から知り、その惨さに同情はしても、唯一の友だったビクターを自分の顔をした怪物が苦しめていることへの絶望に苛まれる。
ステファンを殺し、処刑されたエレンが横たわる壊れた研究室で、絶望し縋るビクターを暗い笑顔で見下ろす怪物。
「殺してくれ…」
「まだだ。」
(これ以上ビクターを苦しめないでくれ…っ)
血を吐くような身の内のアンリの声を聴き、満足げに笑う怪物。
(わかるか。これがお前の託した希望とやらの成れの果てだ。)
(お願いだ、もう…やめて、くれ…)
その声を無視して復讐を進める怪物。怪物はアンリの記憶を得ることで、復讐の対象をビクターだけでなく同じ身体の中にいるアンリにも向けていて。夢を託したはずの自分が、愛した友から何もかもを奪っていく様子を目を逸らすこともできず見ていることしかできないアンリ。それが怪物の、アンリへの復讐。
・・・ ・・・
北極。ビクターと対峙し、銃を向けられた怪物が少し怯んだ隙に怪物から身体を奪い、アンリは両手を広げる。
「!!!」
ハッと顔を上げ怪物を見るビクター。その目はビクターの知っているアンリそのもので。二人の視線が絡みあい、その一瞬でビクターは怪物の中で今何が起きているのかを理解した。ビクターの表情から、今彼の前にいるのは怪物でなく自分だということが伝わったと安堵するアンリ。
(早く…!僕がこの身体を支配できている間に!撃つんだ…!!)
(アンリ…っ)
(ビクター!終わらせるんだ、早くっ!)
引き金にかけた指と、銃を支える腕が震える。
(撃てないよ…そんな、)
(はやく…ビク、タ…)
(!!!!っ)
急に怪物の目に戻ったアンリが、落ちていたナイフを拾い、襲い掛かった。
発砲。
「ビクター…」
(アンリ…ッ!!!)
刺された脚を引き摺り、ビクターはアンリに近寄って頬に手を当て、力なく投げ出された手を取った。
「アンリ、アンリ…ッ」
笑みをたたえたその顔は、まさしくアンリそのもので。
「アンリ…アンリ…ッ…アンリーーッ!」
怪物が復讐を進め、自分の周りの者を殺めるたびに自分と同じように怪物の中でもがき苦しんだであろう彼を救えたということ、そして最後に再び会えた事実に安堵し、微笑むアンリの頭を掻き抱き、その名前を呼びながら目を閉じるビクター。
ビクターの叫ぶ声に死にゆく自分を自覚しながら、アンリは怪物の声を聴いていた。
(お前が出てきてくれたおかげで、うまくことが運んだ。これで創造主は二度お前を殺し、そして本当に絶望の中でひとりになる…)
(いいさ。彼もじきに死ぬ。最後に会えたから、それでいいんだ。)
(…まぁ、いいだろう。俺の復讐は果たせた…)
凍てつく風が二人をひとつの氷の塊にして、彼らはこの大地の一部になった…
***
怪物は、わざとアンリにその身体を奪わせて、ビクターに「アンリもいる」とわからせた上で撃たせて、彼が自分の手で本当にひとりになるように仕向けたのかもなと…あの怪物ならそれくらいしそうな気がする。いま気づいたけど、これある意味三者三様のハッピーエンドかも…。ある意味ね。
ラストに手を広げた時の怪物の目が、マジで怪物だったという回もあったようで、それだとまた話が変わってくるけど(さらに妄想の海に落ちそう)、ひとまずは、これで。