Peaceful Tree

主に加藤和樹さんを中心とした観劇やライブ参戦の記録やまとめ。考察や妄想もあるのでご注意ください。

マタ・ハリ2021 感想徒然

マタ・ハリ。完走は叶わなかったけれど、素晴らしい作品、素晴らしい時間にたくさんの幸せをもらいました。またあの切なく悲しく美しい世界に出会えることを願って、また自分の区切りのためにも、ポツポツと思いついたことを書いています。演出の話、マタ・ハリについて、アルマンについて、ラドゥー大佐について。それから少しだけピエールについても。それぞれ★印で区切ってます。既にツイートしたものとココにしか書いてないものが混在してますが、お気になさらず。かなり主観の入った感想もありますので、「なんか違う」と思ったら読み飛ばしてください(笑)。観劇した各日の記事でもたくさん語ってますので、そちらもぜひ。


★演出の話。
まず曲数。マタハリってソロの大曲がとても多いよね。大佐3曲、アルマン3曲、マタはアンサンブルさん込みも入れたら6曲?それ以外にデュエットもあるし、アンサンブルさんたちの歌も耳に残るものばかりだし、リプライズも単体の大曲みたいになってるのもあって。正味2時間半の中でこれだけガッツリ歌を聴かせて、さらに芝居もしっかりあって、密度が本当に濃い。すごい作品だなぁと。

全体に、シンプルなセットと役者の芝居で全てのシーンを表現する演出がとても好みだった。目からの情報が少ない代わりに物語や登場人物の想いに集中できて、それもマタ・ハリの好きなところ。シンプルだからこそ、照明の効果も素敵だった。ミュージカルよりもストプレに近い感じなのかな?とても好き。

『一万の命』冒頭、左右の机をそれぞれ反対の袖から出してきて一旦クロスさせてから定位置に持っていくあのスピード感が、この緊迫感のあるシーンにとてもあってるなと思ってた。さちこさん天才。あの机を「機動力の高い机(笑)」と仰ってるイラストを見かけたけど、まさにそれ。あの曲はほぼ大佐のソロ曲だけどお芝居要素もとてもたくさんで、作品中でもとても重要なシーンかつ曲だなと(これは後述)。すぐそこに、高さや距離をとるのではなく同じ地面の上に塹壕で戦い死んでいく兵士がいるのも、物理的距離は離れていても同胞の死はすぐそこにあるのだという大佐の心の中を表しているようで、とても好き。

『英雄であれ』のラストのトリコロールの照明。かっこいいけれど戦争色の強い歌とあの照明の組み合わせがとても好きだし、あの歌のラストに現れるトリコロールを見るとなぜか高揚する。そしてアルマンの敬礼からのシルエットはほんとズルい。初演はあのシーンで敬礼しなかったから、あれは和樹アルマンでも観たかったな。あの飛び立つシーンのラスト、初演の時にずっと「ここで敬礼したらかっこいいのに」って思って観てて、そしたら大楽に突然とんアルマンがピシッと敬礼して、「ずるいー!!!」となってたの。でも敬礼無しでじっと空を見つめる和樹アルマンも素敵だった。英雄であれ、やっぱり好き。

『さよなら』の歌い終わりでマタが階段を駆け降りるシーン。たなびく髪とお洋服も含め、マタがシルエットになって影絵のように見えたの、美しかったな。さちこさんのああいう演出好き。 

シルエットといえば、ラストシーンでマタを銃殺する兵士たちがシルエットで現れるのもとても好きでした。マタにだけスポットが当たってて、兵士はあえて影だけで現れるあの風景は、ひとりで生き抜いて輝いてきたマタの人生の終わりを象徴してるようでとても好き。

女性アンサンブルさん総動員で歌われる一幕ラストと二幕のダンスの後の歌。それぞれの女性たちの想いが垣間見えるお芝居で、ひとりずつじっくり見てみたかったし、設定も知りたい。ドイツ入国のシーンで並んでる皆さんも、それぞれ佇まいが違ってて好きでした😊。

フランスとドイツでそれぞれ社交する皆様。どなたかが手袋の色が違うと言っていて、なるほど!と思ってました。パーティの雰囲気も、華やかで和やかなフランスに対して、レセプションの会場でも将軍は軍服をお召しになっててそれとわかる軍人もいて、♪捕らえろスパイを♪の曲調も相まって全体に厳しさの強い質実剛健なドイツ。この対比がとても好きでした。

それからとても印象的な舞台を二分するあの壁ね(あれなんて言うの?)。キャストより少し上まで柄が入っててその上は真っ黒なの、舞台全体が見える席でも幕前でのお芝居に集中できるし、とても良かった。あのモノトーンの柄も時代の不穏さを象徴しているようで好き。マタがアルマンの病室へ行くシーンでの使い方も巧いなぁと。

全体に硬質、かつ輪郭のはっきりした角ばったセットや小道具だったのは、厳しい時代背景を表しているようでとても好き。はっきり丸みを帯びてたものって、マタのドレッサーとおうちシーンのソファくらいでは?そんな中で、ラストにフワッと降りてくる柔らかくて薄くて大きな布。舞台を覆う空気がガラリと変わって、もうこの世ではないんだなって誰の目にもわかるあの演出、大好きでした☺️。


マタ・ハリ
ちえマタもちゃぴマタも大好き。神々しくて乗り越えてきた人生が垣間見えるちえマタと、生きる力と強さに溢れてて発光してるかのようなちゃぴマタ。男達との関係も、ちえマタは「この私がこれだけ差し出すんだからあなたはそれ以上のものをくれるんでしょうね?」的な取引っぽさを感じたけれど、ちゃぴマタはまさに手玉に取るというか、こちらからの持ち出しはしないで上手いことやろう(そしてそれが実際上手くいく)という強かさを感じました。文字だけで書くと、どっちも「なにこの女」となるけど、それがまさに演出の石丸さんが狙ったところだと思うので、ほんとすごいなぁと。どちらのマタも大好きです。個人的にはアルマンとの関係はちえマタが好き。大佐との関係はちゃぴマタが好き。結果どっちも美味しくいただけました(*´艸`)。


★アルマン
初演の和樹アルマンは大好きだったけれど、一方で私の場合は作中の「アルマン=ジロー」という人物に対して、早い時点から己の世界の中心に任務ではなくマタを据えてしまった様子に共感できなかったのも事実で。それが再演のりょんアルマンでイメージを覆されたのは嬉しい誤算でした。マタを大切に思いつつ、フランスに忠誠を誓う軍人としてもしっかりと立っていて、立ち居振る舞いや視線、佇まいが軍人だった。裁判に乗り込んできた時も、アルマン=ジロー"中尉"だった。このシーンでそれを感じた時に、和樹アルマンはこのシーン、既に軍人ではなくマタを助けにきた「ただの男」だったなと気づいて、いろいろ腹に落ちたのでした。この話をしたら、お友達が「和樹アルマンは♪普通の人生♪の時点でマタを想うひとりの男で、もう軍人ではなくなってたからね」と言っていて、なるほどなーと。もちろん、目の前の幸せを守るためにただの男として乗り込んでくるアルマンも素敵だよ。これは私の好みの問題(笑)。とんちゃんはこの「ただの男」寄りのアルマン像だった気がするので、私は最後までマタへの愛と共に軍人感を残していたりょんアルマンが好きでした。また会いたいなぁ。
そして、もし再演で和樹アルマンがいたなら、なんとなくこの軍人感を残したアルマンだったんじゃないかなぁとも思ってます。幻だけどね。そんなのが来たら大佐とアルマンどっちも激ツボで大変だったと思う…(笑)


★ラドゥー大佐(長いよ)
和樹ラドゥーは、おそらくそれなりの家庭で軍人になるべく育てられて、そして現場も経験しつつ順調に昇進して首相の娘婿になって大佐の地位まで上り詰めた人物だと思ってて。軍人としての叩き上げ感や経歴は申し分ないけど、諜報部の大佐に就任してからはこれと言った実績がない。毎日各地で凄惨な状況の中死んでいく自国の兵士たち。自分がなんとかしなければならない、そこに焦りがあったのは間違いないし、その希望の光としてマタ・ハリを見つけてしまった大佐の運命よ…。これを言ったら身も蓋もないんだけど、マタ・ハリに出会わなければ、真面目な軍人としてその人生を彼なりに全うできただろうになぁと…。
意図せず愛してしまったマタに対しても、キスをすれば「永遠が見える」と歌うアルマンと、「世界の意味がわかる」と歌うマタ。どう考えても、大佐の入り込める余地はどこにもなかったよね。大佐はマルガレータではなく”マタ・ハリ"を愛し、しかもそれは彼女と愛し合うというよりは手に入れたいという身勝手な愛だったから、初めから勝ち目はなかった。ビッシング将軍のように純粋に彼女のファンとして近づけばまた違った関係になれたのかもだけれど、戦況をなんとか変えたいと思っている大佐には、国境を越え敵国の有力者と接触できるマタの立場は魅力以外の何ものでもなかっただろうし。しかもその両方を得よう、得られると思ったところが彼の間違いだった。彼女の弱みをチラつかせることで「魅力的なマタ・ハリという女」と「スパイとして利用できる存在」の両方を手に入れようとした時点で道を誤っているし、それに気づくのが何もかもを失ってからなのが悲しい。「一万の命リプライズ」や「あなたなしでは」で叫ばれる大佐の切々とした胸の内は、誰の耳にも心にも届かない。軍人として大佐としての責務とキャリアを選んで、本当の想いは心の奥深くに沈めてこれで終わらすと決めたのに、目の前で自分の愛は全く届く余地もなかったということを知ってしまったダメージは途方もない底なしの虚しさで。初演の時にも書いた気がするけれど、マタ・ハリの裁判の最中にアルマンが乗り込んできて死亡したことはおそらく公には"無かったこと"として処理されると思うので、大佐はこの先、部下を殺した罪を自分の胸にだけ留めたまま、愛する女を死に追いやったことを「やるべきことをやった男」として称えられて、己を咎めながら生きていくわけで、本当に哀しい…。いろいろ考えたんだけれど、やはり大佐が救われるのは彼の最期の瞬間だけなのでは…と。(ここから少し妄想→)死に際に「これでやっと…」と、微かな笑みをたたえて数十年の呪縛から解き放されて亡くなる大佐が想像できちゃって辛い。ギュッと抱きしめて束の間でも安心させてあげられたら…と最後に去っていく大佐を見るたび思ってました。でもその哀しすぎる男こそが、和樹ラドゥーなのだよなぁと…

そして再演の大佐の何が好きって、軍人として背負っている使命や責任の部分の表現が初演よりもより濃くなってたこと。一万の命は元々大好きな曲だけれど、あのシーンの作品中の重みってすごく重要だったなと改めて感じた再演でした。和樹くんの歌スキルがこの3年でとんでもなく上がったのもあると思うけど、大佐の任務と同胞を救いたいという想いは再演の方がより強く伝わってきたし、作品の中で数少ない「戦争」を感じさせるあの曲での大佐の想いが序盤で観客に伝われば伝わるほど、マタへの想いと任務との葛藤や苦悩が浮き彫りになるし、戻らないマタへの憤りや裏切ったアルマンへの怒りに納得できるし、抑えつけていたマタへの愛が決壊してしまうおうちラドゥーがより悲しい男に映るよねと。そしてマタを裁くと決める大佐の決断の必然性と、その後の崩れゆく様子もよりドラマチックになるよなぁと、大佐の思いの流れの構成と一万の命という曲の重要さに唸った再演でした。

己のやるべきことや課せられた使命や責務を全うしようとする男が大好きなので、ラドゥー大佐は初演から愛してるけど、再演大佐にさらに落ちないわけはなかった。だからマタやキャサリンよりも、まさとぅーさん、その通信員1回でいいから代わって!と思ってました。ラドゥー大佐、ほんと愛してる。らぶ♡

「君には関係のない話だキャサリン
あれは愛がある無し関係なく、仕事をする男みんなの意見だよなぁ…とそこも大佐に惚れるポイントでした。男の仕事の話に入り込んではダメよ、キャサリン。(ずっとそう思ってみてた)


★ピエール
役の位置付けとしては、再演で一番変わったと言っていいピエール。個人的には、ひとりだけ死に損なって帰還して、陸軍に志願して狙撃兵をしているという流れにとても納得してました。あの最上段のセットでひとり過ごすピエール、ほんといい顔してて好きだったなぁ。特典にピエール特集を入れてほしいくらいです。最後に撃たれて倒れ動かなくなった彼をじっと見上げるラドゥー大佐。実際に大佐の目に見えてるわけではなくとも、そんな存在をこれ以上増やさないために、という決意も感じられる♪戦争に勝つために♪の荘厳な歌い出し。この流れが大好きだった。


★おまけ
7/18ソワレのカテコのりょんくんと和樹くんのグータッチの話。グータッチした時りょんくん完全に足浮いてて和樹くんの方にぷらーんってしてたんだけど、この体勢ってグータッチしてるところにすごく力がかかってないとできないよね?りょんくん可愛い♡ってなりながら、サラッと受け止めてる和樹くんの力強さよ…!となってた(*´艸`)

2012年にNACSのWARRIORの信長を観て、この人を超える好きな役にはもう出会えないと思ったの。でもそこから6年経ってラドゥー大佐に出会いさらに3年経って、今大佐は信長様と並んでしまっている。だからこの先もきっとまたそんな風に思える役に出会えるって思う。それを楽しみに今は大佐に囚われています。夜中のラブレターみたいだけれど、でも素直な気持ち。信長様に並ぶ役がこの先私の前に現れるなんて、9年前の私には全く思えなかったもの。幸せね。

そういえば、マタ目線で一度観たい、観なきゃと思ってたんだけど、無理でした(笑)。マタ目線の『マタ・ハリ』は、全然違う世界だろうなぁと。

ラスト3公演が中止になって、自分で大佐を見送るんじゃなく突然ふわっと消えてしまった(私の感覚)ことで、実際に大楽を観た時よりもロスが少ない…気がする。実感がないだけかもしれないけれど、終わったことはちゃんとわかってて、不思議な感じ。でもまたきっと会えるとも思っています。再再演、心からお待ち申し上げております。

愛を込めて。いつだって愛を込めてよ。